古い焙煎豆で淹れたコーヒーは酸っぱい、という噂は嘘
2015/4発行2017/11/20部分修正
珈琲業界のどこを見ても「古い焙煎豆は腐敗臭の様な嫌な酸味を感じさせる」ようなことが書かれています。しかし本当だろうか。僕の経験上、数カ月経過した焙煎豆をドリップしても嫌な酸味というものを感じたことがありません。以前から違和感を感じていましたが、今回、実験をして明確にしてみたいと思います。
<結論>
先に結論を言ってしまうと、焙煎豆がただ古くなっただけでは強く嫌な酸味を生じることはなさそうです。
ドリップされたコーヒーが酸っぱい場合考えられるのは、「元々浅焼の味付け」だったのか「生焼けの失敗」だったか「挽き具合が粗すぎ」たのか「お湯がぬるかった」か「腐ってた」のどれかです。
世間では浅焼きが主流です。東京ではそれが「かっこいい」らしいですからね。焼き具合はいい色でも中が生焼けの時もあります。お湯がぬるいと苦味が出ません。冷凍庫に保管している人がいるようですが、どうだろう。コーヒーショップでそのような保管方法をしてるでしょうか。冷凍庫から頻繁に出し入れするたび、生じた結露が腐敗の原因になっているかもしれません。
以下で焙煎後経過日数と酸味の関係を実験しました。近所の豆屋さんから同じ味付けで焙煎日のみ違う「5カ月もの」と「3日もの」を用意し、同じ条件で飲み比べてみました。するとどうでしょう。古い豆では「甘みが減り、こってり感が増した」感じをはっきり感じただけ、題目の「強く嫌な酸味」なんて感じられませんでした。ちなみにおいしさでいえば、圧倒的に3日物の方が「甘みがあって、さらっとしていて」おいしかった。
【まとめ】
<古い焙煎豆の本当の特長>
開封の際の香りが弱い。豆を挽くとき明らかな硬さを感じる。風味は、甘みが激減し、こってり感が出る。
<コーヒーが嫌に酸っぱい本当の理由の考察>
@焙煎豆が生焼け。中まで火が通っていないんです。焙煎の失敗です。お豆さんが結構いい色に焼けているのにすっぱいならこの理由。かといってお店に「失敗しちゃいました?」って聞いても「うちはそういう味です」というでしょう。そういうお店は、同じ商品を買うたび、味が違うはずです。そういうお豆を手に入れてしまったら仕方がないので、フライパンで煎ってください。極弱火で3分も煎ると「パチパチ」鳴り始め、そこから5分も煎ればおいしく飲めると思います。最善は、そんな店で買わなきゃいい。
A挽き具合が荒過ぎ。ドリップした時、泡が「真っ白」で、その上にコーヒー粉でなく「粒」が浮かんできたら、それは粗すぎるんじゃないでしょうか。それが好みならいいんです。でも、ここまで荒くすると粉の表面積が減り濾過時間も相当短くなり苦味が出せません。酸味が最も早く抽出されますので、相対的にすっぱいコーヒーに仕上がりますが、@の生焼けほどの酸っぱさはでません。僕はカリタの手動ミルを愛用していますが、ネジ式の留め具1山で、風味は結構変わります。1山を馬鹿にしてはいけません。
Bドリップのお湯がぬるい。
沸騰したお湯を別のポットに移し替えたくらいで丁度いいと思います。沸騰から時間が経過したぬるま湯や、沸騰前のぬるま湯でドリップすると、青臭さだけが抽出されます。
Cそういう味付けなんです。お豆さんの焼き色は薄いと思います。深煎とか中煎の表記は、生産者の感覚です。例えば、ドトールの中煎は、僕の中では浅煎です。ちょっと酸っぱすぎて飲めませんが、そういう味付けなんです。おそらくスーパーで売っているお豆も酸っぱめが多く、それが世間の平均的な好みなんでしょう。こんな時にも、@の時同様、フライパンで煎ってみます。おいしくなります。
D腐ってる
僕の場合、室温で放っておいても腐ったことはありませんが、冷凍庫に保管したり何らかの余計な手間のせいで腐敗するきっかけを作っているかもしれません。
<酸味と胃もたれの誤解>
「焙煎豆が古くなると油分が酸化することで酸っぱさを生じ、それを飲むと胃もたれを起こす」という噂がありますが誤解です。
油が古くなって酸化し酸っぱくなるというフレーズに関して、「サラダ油」「オリーブオイル」が古くなっても酸っぱくならないことから冷静に考えればその理屈が間違いであることがわかるはずです。
もっといえば、ペーパードリップにおいては、油は濾過されません(参考)。
僕は「浅煎りの酸っぱいコーヒー」で胃もたれを起こします。コーヒーで胃もたれを起こした経験のある方は、単に浅煎りの酸っぱいコーヒーで胃もたれを感じたのだと思います。
最近では「酸敗」というナウい表現もみられるようになってきました。手を変え品を変え、どうしてそこまでして、「古くなったコーヒー豆は酸っぱい」という概念を消費者に植え付けたいのでしょうか。そういう人たちにとって何らかの利益があるのだろうけど、だまされてはいけない。間違った情報に振り回されてはコーヒーを純粋に楽しめませんよ。
「古くなったお豆は風味が落ちるからおいしくないよ。早く消費して買いに来てね。」で販売促進は事実に正しい上に、それで十分です。とにかく、コーヒー豆は古くなっても酸っぱくならないし、胃もたれもしませんから。
【実験の詳細】
実験日2015/4/17。近所の豆屋さんから同じ味付けの焙煎豆を調達。
写真左は1014/12/18焙煎のもの、右は2015/4/14焙煎のもの。
数時間同じ場所に置き、豆の温度を等しくする。25gを用意し、中挽きにする。90℃のお湯で150mlとる。
ちょっと濃いめにして酸味を感じやすくしました。
●実験の記録
○開封。5ヶ月目のお豆さんの袋を開封するも、3日目のお豆さんに比べ広がる香りは弱い。
○挽く。5カ月ものは、豆が硬くなっている。挽くとき力がいる。
○湯を注ぐ。
左は5カ月物。右が3日物。下の写真はむらしている状態ですが、「もっこり」具合が全然違う。5カ月物は全然膨らまないが、3日物は超元気。
余談ですが、「焙煎したてです」と言われて買ってきたものの、この5カ月物のもっこり具合にしかならないお豆さんありませんでしたか?きっとそのお店の「焙煎したて」の感覚は数カ月なんですよね。
下写真も、左は5カ月物。右は3日物。写真では伝わりにくいですが、3日物の泡はあふれそうになります。
○飲んだ感想。
感想は、5カ月物は、決して強くはすっぱくない。商品本来の飲みなれた酸味は感じるが、嫌で強い酸味はない。甘さが激減し、珈琲液がドロドロしている。こってりしている。3日物は、いつも飲みなれた味が結構濃い感じだけれど、甘く、ちょっと酸味が感じられ、幸せ。
○ランダム化比較。明らかに味が違うけど、念のため気のせいかもしれないからランダム化比較。
「第三者は僕に知らせずにコップにどちらかを注ぐ。→僕、飲み当てる。」のランダム化比較実験を6回行ったところ。
全問正解。偶然全問正解してしまう確率64分の1。強い酸味がないことを客観的に主張できないが、これにより味の違いの判別ができていることを証明する。
<こっそり余談>
本実験で、古い豆でいれたコーヒーはドロドロこってりするということを発見しました。至極のカフェオレ開発に利用できるかもしれない。焙煎豆をあえて数カ月寝かせて、ミルクと混ぜると、よりこってり濃厚なカフェオレに仕上がるかもしれない♪♪♪
(C) 2015 後藤珈琲研究所